
高専は、高校と大学が融合したような、5年間の独特な世界。そこには、経験した者にしか分からない、濃密な日常が広がっています。この記事では、そんな高専生活を彩る「あるある」を5つのテーマと「共通のトピック」を2つに厳選してお届けします。
高専あるある5選
あるある1:男女比がかなり偏ってる
高専に入学しはじめに直面する現実、それは圧倒的な男女比の偏りです。これは単なる統計データではなく、5年間の学校生活のあらゆる場面で現れてくる、強力な環境要因と言えるでしょう。
多くの学科、特に機械科や電気科では、男女比が9:1といった構成も珍しくありません 。そして高専の最大の特徴の一つが、5年間クラス替えがないこと(低学年の間はクラス替えのある場合もあります)です。この固定されたメンバーで、思春期から青年期へと至る濃密な時間を共に過ごすのです。一般的な「男子校」と聞いてイメージされるような、常にエネルギッシュで騒がしい雰囲気とは少し異なり、むしろ静かで落ち着いた学生が多いクラスも少なくありません。クラスの団結力が最も発揮されるのは、体育祭や球技大会ではなく、オンラインゲームの協力プレイだった、という経験を持つ人も多いのではないでしょうか 。
この極端な男女比は、単に社会的な特徴に留まりません。異性との交流機会が限られることで、学生たちの関心は自然と内側、つまり仲間内に向かいます。男子学生たちは必然的に男同士で非常に強い絆を築き、その結束は男女比に左右されない共通の活動、すなわちオンラインゲームやプログラミング、ロボットといった趣味を通じて強固なものになっていきます 。一般的な共学高校のような社会的なプレッシャーから解放され、学生たちは自分の技術的な趣味やニッチな関心事に深く没頭することができます。
結果として、この「ほぼ男子校」状態が、後述する高専独特の専門的「オタク」文化を育む直接的な土壌となっているのです。
あるある2:留年の二文字が常にちらつく
高専生活において、「留年」という言葉は決して他人事ではありません。それは常に学生たちの頭の片隅に存在する、身近な脅威であり、高専ならではの特徴です。
なぜ高専の留年率は高いのか。その理由はカリキュラムにあります。高専生は、年齢的には高校生でありながら、実質的には大学レベルの数学や物理、そして高度な専門科目を学びます 。授業の進度は非常に速く 、内容は抽象的で難解です。特に、数学の授業でまだ習っていない知識が専門科目の理解に必要となる場面も多く、学生たちは常に挑戦を強いられます。そして高専は赤点が60点であり、赤点以上の点数を取れなかった者が、留年という現実を突きつけられるのです。
この過酷な環境を生き抜くための必須アイテムが「過去問」です。これは単なる学習補助ではありません。先輩から後輩へと代々受け継がれる、単位取得のための「バイブル」であり、その入手とマスターが成績を左右すると言っても過言ではありません。この過去問のやり取りを通じて、学年を超えた強力な知識共有のネットワーク(部活、寮、同じバイト先等)が形成されるのも、高専ならではの文化です 。
この留年という絶え間ない脅威は、学生たちに独特の文化をもたらします。それは、自らの苦境を笑い飛ばす「ブラックユーモア」の精神です。留年や赤点の危機を冗談のネタにすることは、過酷なストレスに対処し、仲間との連帯感を強めるための重要なメカニズムとなっています。そしてこのプレッシャーは、学生たちの成長を促進します。学問の完璧な理解よりも、「いかにして単位を取得するか」という現実的な目標に焦点が移り、最も効率的な解決策を見つけ出す能力が磨かれます。これが「過去問ゲー」の本質です。既存のリソース(過去問)を最大限に活用し、共通の障害を乗り越えるために協力する。この実用主義的な姿勢こそ、技術者に求められる問題解決能力そのものであり、留年の恐怖は、意図せずして学生たちをタフで有能なエンジニアの卵へと育て上げるための、効果的な訓練の場となっているのです。(良く言い過ぎたかもしれません笑)
あるある3:終わらない実験・レポート地獄と、そこで生まれる謎の団結力がある
「レポート地獄」―この言葉ほど、高専生活の本質を的確に表現するものはないかもしれません。実験、データ解析、そして徹夜でのレポート作成という無限ループは、高専生にとっての日常であり、そこで育まれる友情は特別なものです。
まず理解すべきは、これが単なる「作業」ではないということです。座学で得た知識を実践で確認する、この実践的な実験・実習こそが高専教育の根幹をなしています 。学生たちは、一般的な高校では触れることのできない高度な実験装置や最新の設備を使い、理論が現実世界でどのように機能するかをその手で学びます。
レポートの締め切り前夜、寮の部屋には独特の連帯感が生まれます。コンビニの軽食とエナジードリンクを燃料に、互いのコードをデバッグし、計算ミスを指摘し合い、考察のヒントを出し合う。この「同じ釜の飯を食う」ならぬ「同じレポート地獄を味わう」経験は、学生たちを単なるクラスメイトから、苦難を共にした戦友へと変えるのです。

あるある4:自由すぎる校風が育むオタク文化
校則は緩く、休みは大学生並みに長いです。そしてキャンパスは、しばしば娯楽の少ない郊外に位置するという高専特有の環境は、学生たちの深い専門的趣味を、本格的な「オタク」文化へと昇華させるための完璧な培養皿となっています。
高専は、一般的な高校と比較して校則が緩く、学生は大人として扱われます 。服装や髪型も自由な学校が多く、その雰囲気は大学に近いです。しかし、キャンパスの立地は地方にあることが多く、放課後に遊ぶ場所が限られているのが現実です 。
高専の夏休みと春休みは、それぞれ40日以上にも及ぶことが珍しくありません 。これは、一般的な高校生には与えられない、膨大で自由な時間です。この時間をどう使うかが、高専生の個性を形作るといっても過言ではありません
この「自由な校風」「娯楽の少ない環境」「長すぎる休み」という三つの要素が組み合わさることで、学生たちのエネルギーは内面へ、つまり自身の興味関心へと深く向かいます。その結果、ゲーム、アニメ、プログラミングといった趣味は、単なる気晴らしではなく、専門的な探求の対象となります。クラスの8割が自らを「オタク」と認識している、という状況も決して大げさではありません 。中には、趣味が高じて自作のゲームやアプリケーションを開発してしまう強者も現れ、趣味と専門スキルの境界線は曖昧になっていきます 。またこのような背景からオタクに優しいのも高専の特徴だと思います。
あるある5:高専生だけの専門用語ありがち
5年間にわたる集中的な専門教育は、高専生だけの共通言語と、外部からは理解しがたい独特な価値観を形成します。それは、高専というコミュニティへの強い帰属意識の源泉となっています。
高専生同士の会話には、しばしば専門用語や略語が飛び交います。自分の学校をアルファベットで略称したり(例:〇NCT, NIT〇C) 、「再試」や「仮進級」といった学業に関する言葉の微妙なニュアンスを共有したり、授業で習った技術用語が日常会話に溶け込んでいたりします。これらの言葉は、5年間の共通体験を持つ者同士の合言葉として機能するのです。
高専ならではの共通のトピック
高校生?大学生?どっち問題
高専生活を語る上で欠かせないのが、自らが「高校生」なのか「大学生」なのかという、独特の立ち位置です。校則は比較的緩やかで、長期休暇は大学生並みの長さがあります。しかしその一方で、5年間固定されたクラスメイトと過ごし、留年のプレッシャーと戦いながら高度な課題に取り組む日常は、非常に濃密な高校生活そのものと言えるでしょう。
学生割引の適用は高校生として受けられる一方 、学ぶ内容は大学レベルに及びます。普通高校の友人から長期休暇を羨ましがられても、実際にはレポート作成に追われているという状況も少なくありません。この「高校生」でも「大学生」でもない曖昧な立場は、標準的な教育課程とは異なる道を歩む高専生特有のアイデンティティであり、誇りであると同時に戸惑いの源ともなっています 。
「就職」する?「進学」する?問題
高専生活の集大成として、すべての学生が直面するのが進路選択という大きなテーマです。「レポート地獄」を通じて培われた実践的なスキルや、高専生特有の価値観は、この最終的な決断と深く結びついています。
5年間の専門教育により、高専生の就職率は極めて高く、大手企業からの推薦も多数あります。卒業後の安定したキャリアパスが約束されていると言っても過言ではありません。
しかし、その一方で「さらに学びを深めたい」「学士の学位を取得したい」という学術的な探求心から、「大学編入」や「専攻科進学」という道を選ぶ学生も少なくありません。編入試験は模試や偏差値といった指標が存在せず、情報収集が合否を分ける厳しい世界です。夏休みを返上しての受験勉強や、編入先での単位不足による留年のリスクなど、多くの困難が伴います。
10代という早い段階で、これほど大きな人生の岐路に立たされること。これこそが、高専生が共有する重要なテーマと言えるでしょう。
まとめ
異常な男女比、留年のプレッシャー、終わらないレポート地獄、専門的オタク文化、そして外部には通じない専門用語。これらは単なる面白エピソードや不満の種ではありません。これらすべてが絡み合い、高専卒業生という、打たれ強く、示唆に富み、そして何より個性的な人材を育む土壌となっているのです。
高専生であること、高専生だったことは、特別なコミュニティの一員であることの証です。そのおかげか高専出身者と会うと、それだけで打ち解けられるという経験はよくあります。
今まさにレポートや試験と格闘している現役生の皆さん。その道は決して楽ではないでしょう。しかし、そこで得られる知識と、苦楽を共にする友人たちは、間違いなくあなたの人生にとってかけがえのない財産になります。就職か、編入か。あなたが選ぶ道がどちらであれ、高専で過ごした5年間が、その先の未来を力強く照らしてくれることを応援しています。

ライター情報
熊本高専 人間情報システム工学科
ハルキ
情報系の高専生。趣味は写真。