
はじめに
「明日のテストは過去問と全く同じ問題が出れば」余裕、「この公式さえ覚えておけば」、単位はなんとかなる。
テスト期間中の図書館や寮の自習室で、そんな会話をしていませんか? 確かに、低学年のうちはそれで乗り切れることもあります。高専の定期試験は、教員によっては過去問の数値を変えただけで出題されることもあるからです。
しかし、高学年の専門科目、大学編入試験、そして卒業後のエンジニアとしての実務において、その公式暗記という武器は突然通用しなくなります。「勉強したはずなのに、全く手が出ない」という絶望を味わう前に、学習の質を転換する必要があります。
この記事では、多くの高専生が陥りがちな「暗記偏重」からの脱却と、工学のプロになるための「本質的な学習ステップ」を解説します。
なぜ公式暗記だけでは通用しないのか
結論から言うと、現実の課題は、教科書の例題通りには現れないからです。
公式暗記だけで戦おうとする姿勢には、以下の3つの致命的な欠点があります。
ひねりに対応できない(応用力の欠如)
過去問丸暗記勢は、問題設定の座標系が変わったり、変数が一つ増えたりしただけでフリーズします。「見たことない形だから無理」というのは、エンジニアとして敗北宣言に近いものです。編入試験では、まさにこの「公式の意味を理解しているか」を問うために、あえて見たことのない設定で出題されます。
公式の適用範囲を無視して失敗する
すべての公式には前提条件があります。それを無視して、「とりあえずこの文字があるからこの式!」と当てはめると、物理的にあり得ない答え(負の質量や光速超えなど)を導き出してしまいます。
技術の進化に追いつけない
新しい技術やプログラミング言語は次々と出てきますが、その根底にある数学や物理法則(線形代数、微積分、力学)は変わりません。表面的なツールの使い方しか知らないと、新しい技術が出てくるたびにゼロから覚え直しになりますが、原理を知っていれば「ああ、あれの応用ね」と即座に理解できます。

学習の流れ
では、具体的にどう学習すればよいのでしょうか。
1.本質の理解
まずは、その式や概念が「物理的に何を意味しているのか」を言葉で説明できるようにすることです。
例えば、微分方程式を学ぶ際、単に解き方を覚えるのではなく、これはある瞬間の変化の割合が、現在の量に比例している現象(人口増加や放射性崩壊など)を表しているというイメージを持つことです。
- 数式の翻訳:数式を日本語に翻訳してみてください。
- dx/dt = v → 位置の時間変化率が速度である
- ∫ → 微小な量を積み重ねて全体量にする
- ビジュアル化: グラフの傾きなのか、面積なのか、ベクトルの回転なのか。図形的なイメージがないまま計算だけで進めないようにしましょう。
2.解き方の流れを覚える
本質を理解したら、次は手続き(アルゴリズム)を習得します。これは暗記に近いですが、「なぜその手順を踏むのか」という理由付きの記憶です。
例えば、制御工学で伝達関数を求める流れや、構造力学でモーメント図を描く流れなどです。
- フローチャートを作る:まず境界条件を確認する→支配方程式を立てる→変数を分離するといった、思考のフローチャートを頭の中に作ります。
- 再現性:答えを覚えるのではなく、この手順を踏めば、どんな数値がきてもゴールにたどり着けるという型を身につけます。
3.いつ使えるか適用の条件の理解
ここが最も重要で、多くの高専生が見落としがちなポイントです。その公式や定理は、どんな条件下で成立するのか(前提条件)を叩き込みます。
- ベルヌーイの定理:「粘性がなく(非粘性)、圧縮もしない(非圧縮)流体」でしか使えません。ドロドロの油や、高速で流れる気体に無邪気に適用すれば計算結果はデタラメになります。
- オームの法則:全ての素子で V=IR が成り立つわけではありません。ダイオードやトランジスタのような非線形素子相手に、単純なオームの法則は通用しません。
公式の適用限界を知らないと学んだ公式も使えません。
具体的に何をすべきか
明日からの学習を変えるための具体的なアクションプランです。
- 「導出」を一度は自分でやる
- 教科書の公式の証明や導出過程を、何も見ずに白い紙に再現してみてください。途中で詰まった場所が、あなたの理解していない穴です。導出過程には、その理論の物理的意味と前提条件が全て詰まっています。
- 教科書の「日本語」を読む
- 太字の数式だけを目で追っていませんか? 数式と数式の間にある日本語の説明文にこそ、重要なヒントや制約条件が書かれています。高専の教科書は無味乾燥に見えますが、実は非常に論理的に書かれています。
- 友人に説明する(ラバーダック・デバッグ)
- テスト前、友人に勉強を教えることは最大の学習です。「ここはどうしてこうなるの?」という友人の素朴なツッコミは、あなたの理解の浅い部分を鋭く突いてきます。うまく説明できなければ、理解できていない証拠です。
- プログラミングで検証する
- 高専生なら、PythonやMatlabを使える人も多いでしょう。計算した結果をグラフに描画してみる、シミュレーションしてみることで、「数式が動く様子」を確認できます。
まとめ
公式暗記は一時的には楽をして点数が取れるかもしれませんが、使い続けると考える力が失われ、学年が上がるごとに苦しくなります。
- 本質(物理的意味)を理解する
- 解法のプロセス(アルゴリズム)を身につける
- 適用条件(限界)を知る
この3ステップを意識するだけで、レポートの考察の質が上がり、編入試験の応用問題に強くなり、何より工学が楽しくなります。
今日の課題から、数式の裏側にある理屈を少しだけ覗いてみてください。それが、最強のエンジニアへの第一歩です。

ライター情報
熊本高専 人間情報システム工学科
ハルキ
情報系の高専生。趣味は写真。











